赤アザ治療は、皮フ科や美容外科、美容皮フ科の治療のなかでも、近年著しく治療法が進化してきている分野です。これは、赤アザで悩んでいる人たちには大きな朗報といってよいでしょう。こうした治療法の進化は、治療用のレーザーが日進月歩で改良を重ねて達成されたものです。
わたしが2002年に、はじめて一般向けに、赤アザにおけるレーザー治療の有効性を訴えるために書いた『赤アザ・赤ら顔、浮きでた青い血管--最新医療レーザーで切らずに治る!』を刊行した当時と比べても、治療法はめざましい進歩をとげています。
当時、すでにホクロやイボを蒸散させる炭酸ガスレーザーは大きな病院には設置されていることが多かったのですが、皮フ科の病院で赤アザ治療用のダイ(色素)・レーザーを設置しているところは、そんなに多くはありませんでした。
そのため、今でこそかなり一般に普及している「赤アザはメスで切らずに、レーザーで治る」ことを、そのころは知っている人がまだ少なかったこともあり、なんとか多くの方に知っていただきたいと考えて啓蒙活動をしてきたのです。
その当時、多くの医学書を見ると、ほとんどが赤アザに対しては、“wait & see”、つまり「時間が経てば、だんだんと良くなっていくので、観察しておきましょう」という内容の治療方針を掲げていました。
皮フ科や小児科(赤アザは乳児のころからできる場合が多い)へ、患者さんや保護者の方が行っても、「経過観察」か、あるいは「切除手術」しか、医師から治療法を教えてもらえないことも少なくなかったようです。
「切除手術」の場合は、全身麻酔をして、メスでアザの部分を切除して縫合するので、皮膚には手術の切開・縫合跡が残ってしまいました。また、大きなアザの場合は皮膚移植という大手術が必要でした。
このような形成外科的な手術では、皮膚にメスを入れるので、当然痛みや出血をともない、術後の安静や日常生活の制限が不可欠となります。このような治療法では、患者さんの身体的・精神的、また経済的負担は大きいものとならざるをえませんでした。
こうした状況があったので、「赤アザを治療したいけれど、メスを入れる手術は怖い」と、治療を希望するのに手術に踏み切れないことが多かったのです。また、治療にのぞんだ方のなかでレーザー治療を受けた人の割合は、今よりずっと少なかったのです。
わたしはほとんどの赤アザはレーザー治療で治ると著書で書きましたが、その当時治療を希望していても、そのなかで実際にレーザー治療を受ける方の割合は、まだ半分かそれ以下だったのではないでしょうか。
多くの方の赤アザ治療をするなかでわたしが感じたことは、他のアザ(黒アザ、茶アザ、青アザ)の患者さんと比べても、赤アザの患者さんには切実に治療を願う方が多いということです。
これには、いくつか理由があげられるかと思います。
まず、赤アザが、顔や首、前腕など目立つ部位にできやすいことがあります。もちろん、これ以外の部位にもできるのですが、顔や前腕にできる割合はかなり高いのです。赤ら顔も、文字通り顔の皮膚疾患です。
そのため、どうしても人目につきやすいのです。また、赤アザや赤ら顔は血管の病変なので、赤という色から出血や傷を連想されやすいことも、人目をひきやすい原因となっているのでしょう。
これは、明らかな非常識な迷信や偏見というべきですが、心無い人や医学的な知識がまったく無い人から「前世のたたり」や「先祖が悪い」というような、的外れとしか言いようがない言葉を投げかけられて、本人や家族の方が傷つくことも少なからずあるようです。
また、ありえない話ですが、「赤アザが伝染する」などという非科学的な偏見を持つ人もなかにはいるようで、そういう言葉を浴びて心を痛めている患者さんもいらっしゃいました。
確かに赤アザは血管の病変ですが、「なぜそうした病変が起こるのか」ということについては、医学的にはまだ明らかになっていません。残念ながら、運悪くできるとしか言いようがなく、予防もできません。
しかし、当たり前ですが、「前世のたたり」などがもとになっていることなどありえない話ですし、「赤アザが伝染する」ことも決してありません。
また、赤アザは乳幼児など若いときからできることが多いので、まだ幼いころから、ぶしつけな質問を受けたり、からかわれたり、いじめの対象となってしまうことがあります。こうしたことも、赤アザのお子様を連れてこられる保護者の方が、切実に治療を希望される理由の一つでしょう。
先述したように、わたし自身が人目につくアザによる精神的な負担を感じてきたので、患者さんの悩みは他人事ではありません。
わたしは赤アザや赤ら顔のより良い治療を行っていくことはもちろん、出版やインターネット、テレビなどあらゆるメディアを使って情報発信をしていますが、それがここに述べたような「赤アザ」という病気に対する偏見をなくす一助になれば良いと心より思います。
赤アザ治療は医療用レーザーが新しく開発されてきて、日進月歩の進化を遂げてきていることは、すでに説明したとおりです。しかし、こうした状況にもかかわらず、現在でも医師が読む専門書ですら、まだ、“wait & see”(経過観察)を勧めているものもあります。これには、大きな問題があるといわざるをえません。
問題の一つとして、代表的な赤アザである、イチゴ状血管腫の経過観察における患者さんのリスクがあります。
このイチゴ状血管腫は、生まれたての赤ちゃんのときにできることが多い皮膚疾患ですが、“wait & see”の間に表面が隆起したり、アザが大きくなることが非常に多いのです。医師の診察によって導き出された、“wait & see”という方針のために、疾患が進行して治りにくくなったり、治っても跡が取れなくなってしまったりするケースが少なくありません。
早期治療をすれば、きれいに治る可能性が高い症状でも、放置すれば治りにくくなることもあるのです。
にもかかわらず、なぜ、こういった“wait & see”が勧められるかといえば、年齢とともに自然に赤アザが減退していくこともあるからです。しかし、治療しない期間があったために、アザが盛り上がったり、アザの表面の皮膚が変形したりして、自然消滅どころか悪化する場合が少なくないので、そのリスクを考えると、やはり経過観察は最初にとるべき方法ではないと考えます。
また、医学の教科書などに“wait & see”が掲げられているもう一つ原因があります。それは指導的立場の医師のなかに、実際に赤アザのレーザー治療を行っていないために、レーザー治療についての実践的な知識が少ない方がいることです。
指導的立場の医師、つまり医学部の教授が医学を学んだ若いときには、まだレーザー機器を使った治療が一般的ではなかったため、またそれに加えて、その後のレーザー治療の進歩を見過ごしている場合もなきにしもあらずなのかもしれません。それほど医療レーザーの進化の速度はあまりに急速だったのです。
いまだに、赤アザはレーザーではきれいに治らない、と考えている医師もいるのです。
しかし、レーザー治療技術がここまで進化している現在、もはや赤アザに対しては、「早期からのレーザー治療」こそ、医師が最初に選択するべき方法といえるのではないでしょうか。
2002年の『赤アザ・赤ら顔、浮きでた青い血管 最新医療レーザーで切らずに治る!』の出版の当時、赤アザ治療には、わたしは当時最新のNライト・レーザーとVスター・レーザー、ノーマルのダイ・レーザーを主に使って治療していました。しかし、現在ではVスター・レーザーは使っていますが、ほとんどNライト・レーザーやノーマルのダイ・レーザーは使っていません。
その理由は、その後に開発された、高性能のレーザーを使ったほうが、Nライト・レーザーやノーマルのダイ・レーザーを使うより治療効果が高いからです。つまり、当時より現在のほうが、より進んだ治療を行っており、患者さんはその進んだ治療を受けることができるのです。
わずか数年でさらに進化した、赤アザのレーザー治療ですが、ここでこれまでのレーザー治療の変遷について、ざっと振り返ってみましょう。
ここ三十年間足らずの間に、赤アザ治療は、
「レーザー治療が無かった時代」
「アルゴン・レーザーの登場」
を経て、
(1)「ダイ・レーザーの登場」
(2)「Vスター・レーザーの登場」
(3)「さらに新しい赤アザ治療レーザーの登場」
と、駆け足で段階的に進化しています。
前著『赤アザ・赤ら顔、浮きでた青い血管--最新医療レーザーで切らずに治る!』を書いたのは、ちょうど(2)の段階で、この本を書いている現在は、新しく(3)の段階に入ったところです。
この(3)の段階における最新治療情報を一般向けに解説している医学書はまだ見当たりません。ですから、これを著すことは赤アザや赤ら顔で悩む人にとって、きっと有益な最新情報となるはずです。
赤アザ治療は、色素(ダイ)・レーザーの登場前と、登場後で劇的に変化しました。
色素(ダイ)・レーザーによる治療がまだ開発されていなかったときは、冷凍凝固、電気凝固、切除法、アルゴン・レーザーなどの治療法が行われていました。
方法は違いますが、どれも赤アザを外科的に取り除く方法です。当然麻酔をして治療を行うのですが、出血は避けられず、術後には身体、特に皮膚へのダメージや痛みがあって、跡が残るという難点がありました。
こうした外科的な方法には、現在のレーザー治療と比較して、かなり大きなリスクがあったのです。
この難点を解決するために、赤アザ治療用の色素(ダイ)・レーザーが開発されましたが、古いノーマル・タイプのものは、「皮膚の表面部の病変しか治療できない」という効果が小さいという点と、「病変部の周囲や奥にある、健康な組織に熱のダメージを与える」「術後に青紫の色素沈着が起こる」という点が、医師・患者ともに悩みの種となっていました。
しかし、それでもダイ・レーザーは従来の形成外科的な治療方法との比較では、身体(皮膚)へのダメージが少なく、治療跡が目立たないことが評価されていました。
その後、皮膚治療用の医療レーザーは、この二つの欠点を改善する方向で研究が進められてきました。いかにターゲット(赤アザ=血管腫の場合は病変血管)に大きなエネルギーを与えて消失させ、しかも周囲の組織へのダメージをなくすか、というテーマで新しいレーザーの開発が進められてきたのです。
運良くというべきか、ここ十年ばかりの間に、若返り治療、皮膚疾患治療用の医療レーザーは、大きな技術革新がありました。その流れのなかで、ダイ・レーザーの治療時における「皮膚の表面部の病変しか治療できない」「病変部の周囲や奥にある、健康な組織にダメージを与える」「術後に青紫の色素沈着が起こる」というデメリットを改良したレーザーが開発されました。
それが、Nライト・レーザーやVスター・レーザーです。
なかでもVスター・レーザーは、赤アザにおけるレーザー治療の可能性を大きく広げたといってよいでしょう。Vスター・レーザーもダイ・レーザーの一種ですが、ロングパルス(ノーマルタイプよりパルス長が大きい)というワンショットの照射時間が長いタイプです。
また、ノーマルのダイ・レーザーよりもレーザーの波長が少し長くなっています。そのために、ノーマルのダイ・レーザーによる治療では残ってしまう深部の病変部まで治療できるようになったのです。
ロングパルスであることと、波長が長いことで皮膚の深くまでレーザーエネルギーを届けることができる設計となっているVスター・レーザーには、もう一つ、ダイ・レーザーにはない特長があります。
その特長とは、Vスター・レーザーには強力な冷却装置がついていることです。この冷却装置があるおかげで、レーザーによって大きなエネルギーを与えても、周囲の組織が熱せられるのを防ぐ機能を持つようになりました。
そのため、今までの切除法などと比べて身体のダメージはほとんどなく、しかもかなり大きな効果を上げることができたのです。第二世代の赤アザ治療レーザー、Vスター・レーザーによって赤アザ治療は大きく進化したといってよいでしょう。
そして、最近になって、赤アザ治療でより深い病変部の治療ができる新たな機種が登場しました。それが、Vスター・シナジー・マルチプレックスです。この「マルチ」という言葉は、色素(ダイ)・レーザーとヤグ(yag=イットリウム・アルミニウム・ガーネット)・レーザー二つの波長のレーザーを交互に照射できることを表しています。
ダイ・レーザーはこれまで説明してきたように、赤アザ治療に使われてきたレーザーですが、照射できるもう一つのヤグ・レーザーについて簡単に説明しておきましょう。
ヤグ・レーザーは、美容皮フ科の分野ではシミ・ソバカスや、茶アザ、青アザの治療に使うことが多いレーザーです。最近は下肢静脈瘤や手足の浮き出た青い血管を目立たなくする治療にも使われて効果を上げているレーザーです。このことからもわかるように、静脈や濃い色のアザに反応しやすいという特性があります。
赤アザ治療においてVスター・シナジー・マルチプレックスを使うと、ダイ・レーザーが病変血管に作用し、残った病変血管をヤグ・レーザーが作用してカバーすることができるのです。
これまでは、Vスター・レーザーでも残ってしまった深い部分の病変部も、Vスター・シナジー・マルチプレックスで改善できるケースが増えてきました。特に赤アザ(単純性血管腫=ポートワイン血管腫、イチゴ状血管腫=ストロベリーマーク)に大きな治療効果を上げており、また、Vスター・シナジー・マルチプレックスは、毛細血管拡張症(りんご頬、酒さ)にも非常に有効です。
毛細血管拡張症(りんご頬、酒さ)の治療では、Vスター・シナジー・マルチプレックス以外にも、ジェネシスという治療効果が高いロングパルス・ヤグ・レーザーも開発されています。